「お祭…?」



「もう始まっとる頃やないかな。
射的に輪投げに打ち上げ花火・・・
花火はホンマ、綺麗やでー」



「わぁ…」





陽も傾きかかった夕刻、
はこんな話を聞いた。





「せやから
ちゃんも行って来ぃや。
せっかくの祭なんやし」




いつものように、屯所の台所で
歩の手伝いをしていた


『お祭』と聞いて
ぱっと顔を輝かせるが、
漬物を漬ける歩の手元を見て
ふと考える。



「え?でもアユ姉は?」



すると歩は
そう言われることを
わかっていたのか、




「ウチはもうちょい仕事あるし。
誰か声かけたらええやん。
今やったらまだ屯所におるんやない?」




ちゃんのおかげで
だいぶ片付いたけど、と
軽く片目をつぶる。




それを聞いたは、
困ったように目をそらした。



「んー…
一緒に行ってくれる人が
いればいいんだけどね」



隊務を終えたばかりで
疲れているであろう者のことや、
わざわざ出かけてくれる人がいるのか…


そんなことを考えて、
照れながら苦笑する。




しかし歩は驚いたように、



「何言うとんの。
ちゃんに誘われて
断る男なん、おらん!」



「ア、 アユ姉…?」




グッと拳を握りしめながら、
「大丈夫!」と歩は言う。




「いつも仕事、仕事やったやろ?
たまには羽伸ばして、
楽しんで来ぃや」




少しでも息抜きになれば、との
心遣い。


にこ、と優しく笑顔を向けられて、
は歩の真意を悟る。



「うん…ありがとうアユ姉。
私、行ってくる!」



歩の言葉で背中を押されたは、
パタパタと戸口に向かっていく。



「気ぃつけてなー」



歩もそんなを見て、
クスクスと笑いながら手を振る。



いつも頑張っている少女に、
ほんの少しでも喜んでもらえたなら。














次へ→