「たくさん買いましたね」


「つーか俺、買いすぎ?
なんか食いもんばっかだし…」





夜、共に祭に出かけたと藤堂は、
いまだ減る気配のない
人ごみの中を歩いていた。




「そんなことないですよ。
どこか座って食べませんか?」



言葉の通り、食べ物ばかりを
手にしている藤堂に
クスクスと笑いながら、が言う。




「あ!だったらさ、俺いい場所知ってんだ。
そんなに歩かないし、任せてくんない?」




の提案にぱっと表情を変えた藤堂が
身を乗り出すように話しかけると、



「はい、お願いします」



声を弾ませながら楽しそうに話すその姿に、
も喜んで笑顔を見せた。











Midsummer-Night's Dream ―Heisuke Todo―











「ここってさ、結構穴場なんだ」




藤堂に連れられて来たのは、
静かで人気のない、神社の境内。


下のほうに祭の灯りが
ちらちらと見える。






「穴場って…?」



「ん?俺らのとっておきの場所。
知ってんのは俺と新八っつぁんと左之だけ」




いい眺めなんだー、と
藤堂は笑って言うが、
は驚いて声を上げる。



「私に教えちゃってよかったんですか!?」



三人だけの秘密の場所に、
自分を招待してしまうなんて。




ちゃんは特別。
俺が一緒に来たかったんだから」




そんなにニッコリ笑顔の藤堂。


なぜだか楽しそうなその表情に、
も自然と笑顔がこぼれる。





「でも、何が 『いい眺め』 なんですか?」



腰を落ち着けたところで、
先ほどの気になる発言。




「見ればわかるよ」





何かを隠しているような物言いの藤堂に
不思議そうな顔をするだったが、
その横で大きな音が上がった。




「あ、始まったみたいだね」




何のことかと正面に向き直った
が見たのは、
大きな大きな打ち上げ花火。





「わっ…!」






最初の一つが上がったのを合図に、
次から次へと大きな花が咲く。




突然の火薬の音に驚きながらも、
想像していたそれは
思ったよりずっと近くに見える。




「すごい…」




自分の目の前の空の
華やかなその光景に、
すっかり釘づけの




しばらく夢中で見ていたけれど、
ふと髪に触れる何かを感じて
頭に手を伸ばそうとする。





「あ!ちょっとそのまま…
じっとしてて?」




「え?」




言われるまま視線だけを動かすと、
見えるのは藤堂の着物のみ。



やっと顔まで見えたかと思うと、





「うん…やっぱ、可愛いー…」





そう、小さく呟いた。





「え?え?何ですか?」




自由になった
何をされたのかと、再び頭に手を伸ばす。


すると指先に当たった感触。





「あ…かんざし?」




そろそろと指でなぞりながら、
それが何かわかった
頬を緩めた。




「うん。今日のお土産にね」





しかしその言葉に、
嬉しそうにしていた
ははっとする。





「え?で、でも私何も持ってなくて…」





「あーいいのいいの!
俺がちゃんに
あげたかっただけなんだから」




自分だけもらうのは…と
オロオロし始めたに、
慌てて藤堂も言葉をかぶせる。



すっごい似合ってるよーだの、
この色にしてよかったなーだの、
好意を露にする藤堂に
も自然に笑顔が戻り、



「…ありがとうございます」



と、はにかんだ。









「そうだ、これ」




あ、と何かを思いついた
ふいに後ろに手を回して、
首からある物を外す。



それは祭の間、ずっとがつけていた
狐のお面。



それを、隣にいる藤堂に
横向きに被せると、
ふふふ、と笑った。






「藤堂さんに似てます」



「え、俺!?」




笑顔で話すに、
藤堂がぎょっとしたように目を丸くする。





「似てるかなあ…」



「似てますよ」





お面を見ながら眉をしかめる藤堂と、
その光景に楽しそうにしている






「…ホントに?」



「はい」





不満げな表情を浮かべる藤堂に、
にこーっと笑ってみせた。






「…そんなコト言って、
狐になった俺に化かされても知らないよ?」




はーーっと溜め息をついて、
拗ねたように藤堂はを見る。




するとはパチパチと
瞳を瞬かせるが、
少しも動じるそぶりを見せない。





「藤堂さん、そんなことしませんもん」






まるで藤堂の心を見透かしたように、
ふっと笑う。




の言う通り、
冗談でこそいうものの、藤堂は一度だって
をたぶらかそうなどと思ったことはない。






けれど、それを口にしたことも
あるわけがなくて。







ちゃーーん…」








一枚も二枚も上手を行く
大好きな少女の隣で、
藤堂はがっくりとうなだれた。












なんでもお見通しな 君のこと






きっと知らないのは





俺の君への






この気持ちだけ











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ありがとうございましたー^^藤堂さんエンドでした。
彼は永倉さんのことを、「タヌキみたい」と言っていますが、
そういう藤堂さんはキツネみたいですよね?

…私だけですか?






UP DATE 2005.8.9