Midsummer-Night's Dream ―Shinpachi Nagakura―











「あ、あの、本当に大丈夫ですよ?」




「だーかーら、こーいう時は、
大人しく甘えときなサイ!」




そんなの額を、
トン、とつつきながら
片目をつぶる永倉。




あの後二人で出かけたものの、
今までにおける
食事や遊戯の支払いは
全て永倉の奢りだった。



せめて自分の分だけでも、
と言うを強引に制して
既に数軒目。





むー…、と、口を尖らせて
困ったようについて来るに、
永倉が話題を変える。






「ところで、
さっきから何探してるんだ?」




「え?」





振り返って言われた
意外な質問に、
はまばたきする。






「そわそわ落ち着きはねぇし、
何か無くしたのか?」





ずっと前を歩いていた永倉。
見えるはずのない、自分の様子が
なぜわかったのだろう。





「あ…いえ、たいしたものじゃ
ないので」






大丈夫です、と言ってみるものの、
促すような視線を向ける永倉に、
は言いにくそうに口を開いた。








「鏡を…」





「鏡?」







「手鏡を…さっきのお店に
置いてきちゃったみたいで」









ドジですよね、と苦笑する。



その話に、永倉は
が常に持っていた、
丸い、小さな手鏡を思い出す。




口ではどんなことを言っていても、
揺れる瞳を見れば
の思っていることなどすぐにわかる。






「…ちょっとここで待ってな」




ポン、と肩に手を置いて、
を近くの店の軒下に立たせる。




「え?あの…」





「すぐ戻って来っから、
それまで絶対動くなよ」




言い聞かせるように
しっかりとを見据えて言った永倉は、
そのまま今来た道を引き返す。






「ながっ…!」





「永倉さん」と言いかけて
慌てて口を噤んだは、
フッと自分に落ちた黒い影に
ゆっくり顔を上げる。



見上げるとそこには、
自分の知らない男が数人立っていた。














「…やっぱ俺が悪かったワ」





人ごみを避けるかのように、
祭から遠ざかった静かな道を
歩いていく永倉。



隣を歩くは、
ごめん、と謝られて
ぶんぶんと首を振る。




「いえっ、鏡を取ってきてくれて
ありがとうございました!」





親切な店の人間のおかげで、
の手鏡はすぐに見つかった。



しかし、永倉がと離れた
わずかな時間の間に、
彼女に近づく男たちがいた。





周囲を囲まれて、
オドオドと視線を
さ迷わせる



さらには強引に腕までつかまれて、
助けてほしいと
心から願った時、
その人物は現れたのだ。










「私、すっごく嬉しかったです」




手鏡を大切そうに握りしめながら、
遠くを見つめるように言う。







『…ちょっと。
無理やりってのはよくないンじゃないの?』






男たちの肩越しに
そう言った永倉が見えて、
最初は驚いたけれど。







「だから私、永倉さん大好きです」




えへへ、と笑って
嬉しそうに話す




本人にしてみれば
何の気なしに言った言葉に、
一瞬目を丸くした永倉。








「…俺も、そうだっつったら?」






「…え?」






ふいっと永倉を見やったは、
その瞳の真剣さに
ドキリとする。





何も言わず、ただ自分を
見つめるだけの永倉。







「えっ…と…」







じっと見られているだけの
その視線に、
だんだんと顔が赤くなっていくのがわかる。











「……プッ」







どう切り出そうか
考え込んでいたは、
隣の永倉の声に
目をぱちくりさせる。




何?と永倉に
尋ねようとしたは、
その肩がフルフルと
震えていることに首をかしげる。







「…あっははははは!!」





突然大声で笑い出した永倉。


は驚いて
さらに瞳を瞬かせる。






「いやーーまさか、
そこまで本気にするとは…!」






その言葉に、
ようやく自分が
からかわれていたのだと気づく。






「なっ…永倉さ…!!」





なおも笑い続ける永倉に、
かあっと赤くなった
唇をかみしめる。





期待を裏切らない
反応を見せるが、
たまらなく可愛いと思う。













あの時、







男たちに囲まれて
困惑するの目じりに、
うっすらと浮かんだものを
永倉は見逃さなかった。




同時に、そこまでを追い詰める男と、
少しでも彼女を一人にさせた自分に
腹が立った。







(らしくねぇな。
俺としたことがよー…)














いつか君に 




本当のことを言ったら






君は驚くだろうか








それとも 真っ赤に頬を染めて






とびきりの笑顔をくれるだろうか








けれど今日は 




君に先を越されたから




もう少しだけ




黙っていよう







俺も君に





ムチュウだって ことを
















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ありがとうございました。
…長々と(汗)


うちの永倉さんはどうも、「可愛い」というより
かっこいい系みたいです。

藤堂さんは本気でアタックしてきますが、
永倉さんと原田さんはからかって遊んでます。
…面白いから。


まだまだヒロインに余裕っぷりな永倉さんです^^;





UP DATE 2005 8.9