Midsummer-Night's Dream ―Susumu Yamazaki―










「ねぇ、水あめって食べない?」



「甘いモンは好かん」



「ならお煎餅は?」



「さっき食うたやろ」



「じゃあ柏餅はどうかな?」



「どんだけ食う気や、お前…」






気の進まない様子の烝を
見事連れ出したが回るのは、
もっぱら食べ物の屋台。



幸せそうに団子や饅頭をほおばるを、
烝は半ば呆れた様子で見ていた。




ちらりと様子をうかがってみれば、
「食べる?」と、手にしたものを差し出してくる。





(この女は…)




まさに色気より食い気と
いったところだろうか。



烝が胸焼けするような甘い菓子を、
パクパクと口に入れていく。





(俺は一体何をしとるん?)





自分そっちのけで食べ物に夢中な彼女。



そもそも、この少女の誘いだと
なぜ断れないのだろう。





頭の中で様々なことがめぐり、
無意識のうちに
スタスタと早足になる烝。




考えていても答えは出まいと
ふと後ろを振り返り、
思わず息をのんだ。






「……!?」




先ほどまですぐそばにいたはずの
がいない。



ずっと後ろについてきていたため、
目を離した隙に
はぐれたのだと思わず焦る。






進んできた道を戻り、
人ごみにもまれるを見つけたのは
かなり後ろの方。



道行く人に押しつぶされそうになっている
その姿を見た烝は、
とっさに腕を伸ばした。






「…っ!?」





突然腕をつかまれた
その力の強さに顔をしかめる。


そしてゆっくりと顔を上げると、
驚いたように目を丸くする。






「スス…ムくん?」




「お前・・・」







「どうしたの…?」






どうした、とはこちらのセリフ。


烝にしたら、必死に探して、
やっと見つけた第一声がこれ。



しかしの目に映っていたのは、
今まで見たこともないような
切羽詰まった烝の顔。






「ごっ、ごめんなさい!
私、歩くの遅くて…」





あれほど迷惑をかけないと
約束したのに、
それを破ってしまったと思った
ひたすら頭を下げる。



悲鳴のように
甲高い声を上げる
烝は、







「ええから、もう離れんなや」


















「私、ススム君に助けられてばっかりだね」


「そんなん、今さらやろ」



言われたとおり、
烝にぴったりとくっついて歩く




「これからは、
もっと気をつけるから…」



「アホ。もう慣れたわそんなん」




気ぃつけたところで
お前には無理やし、と付け加える。



その言葉に 
一瞬考えるが、「そんなことない!」と
ムキになる




もう…と頬をふくらませて
が少し身体を離したため、
二人の間にまた距離が出来る。




ふぅ、と小さく息を吐いたススムは
立ち止まって、





「ホレ」




「え?」




差し出された右手に
思わず烝を見る



烝の意図がわからなくて、
え?え?と、戸惑うばかり。



相変わらずのの様子に、
わずかに眉を寄せる烝。






「…次ははぐれても知らんぞ」






「えっ!?や、やだっ!」



ボソリと呟く烝に
は慌てて、
ぎゅうっ、とためらいなく
その手を握る。




そして、再び歩き出した烝の
わずかに遅くなった歩に合わせながら、
ふふふ、と笑いかける。












この笑顔のために






何度手を差しのべてしまうのだろう








そうすることで





自分だけに向けてくれる笑顔を





独り占めにできたならとさえ 




思ってしまう












『離れんな』








離れられなくなっているのは









(俺かもしれんな…)










ここでもし に視線を送ったなら




彼女はすぐに気づいて



こちらに顔を向けるだろう







そして 





烝の弱い あの笑顔で





にっこりと微笑むのだ










そんなことを想像して、



気を紛らわすかのように



烝は空を 仰ぎ見た。















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どうもありがとうございました^^ 
ススムくんバージョンです。


彼が甘いもの好きじゃないというのは
私の勝手な想像です;
胃もたれしそうなものはあまり好まないんじゃないかと。



あと、ススムくんはあまり人のことを
名前で呼ばないような気がします…。


……というのも私の想像です;










UP DATE 2005.8.9