はじまりは突然に




君との出逢いは  必然に








BOY MEETS GIRL ―act.2―








テニスコートに響く
ボールの音と、人の声。


部員数200人という
遠くからでも聞こえる
その声を頼りに、
はある人物を探していた。



(…ここに来れば会えるって、
ジロー君は言ってたけど)





ジローからテニスコートまで
案内してもらったはいいが、
なにせ広すぎてどこにいるかわからない。


スタンドの上から見回してみても、
みんな同じように
練習をしている。



「でも、ここにいるのは確実なんだよね」



正レギュラーである
ジローが言うのだから、
きっとそうに違いない。


うんうんと一人で頷いたは、
まずコートを一面ずつ
見ていくことにした。







「……わっ…!」




大きな声をあげながら、
ひたすら練習に励む部員たち。


至る所で、思わず目で追うような
試合が繰り広げられている。



スタンドの上からでも
これだけの迫力なのだから、
近くまで下りていけば
どれだけの迫力なのだろう。



校舎の窓からしか
練習風景を見たことがなかったは、
すっかり釘付けになっていた。


そのため、背後から近づく足音に
気づくこともなかった。






「そこの女!」



「ひゃっ!?」




いきなり真後ろから声がして、
思わずビクリと肩を震わせる。


驚いて振り返ると、声の主は
なにやら怒ったような顔つきで
を見ている。





「部外者は立ち入り禁止だ」




腕を組み、
じろりと睨みつけられるように
見下ろされたに、無言の重圧。



けれどの次の一言は
更に驚くような内容だった。





「あっ、あの!
少しお話しさせてもらうだけでいいんです。
私、新しくマネージャーをさせて頂く
と言います…」





「……マネージャーだと?」




初めて聞く話だった。


今まで志願をしに来た
マネージャー候補は
皆、不順な動機を持つ者ばかりで、
そのため募集はしていない。


ましてやそのような話があれば、
真っ先に自分の耳に
届くはずなのに。






気づけば他の部員たちが
ざわざわと騒ぎ始めていて、
二人は周囲の視線を集めていた。



そしてそんな中、
練習中にも関わらず
こちらへ走って来る者が一人。






!?」




「あっ、亮ちゃん!」







(((亮ちゃん!?!?)))





の放った一言に、
その場にいた者が
ほぼ皆凍りつく。


少女を『』と呼んだ人物―
あの宍戸を
そんな風に呼ぶ彼女は
一体何者なのか。






「宍戸、お前の知り合いか?」



「…だったら何だってんだよ」






互いを名前で呼び合った二人、

自分を知らなかった少女、

歯切れの悪い、宍戸の言葉。





何を言わずとも、
それだけで大体の察しはついた。




「……お前」



「はい?」





何ですか?と聞き返したは、
急に腕を引かれてバランスを崩す。




「え…きゃ!?」



ぐらりと前へ倒れた身体は、
自分を引き寄せた、『彼』の胸の中。





「なっ……!」




突然の出来事に、倒れこんだ
何が起きたのかわからずにいるようだったが、
そばにいた宍戸は
驚いて目を見開いている。



そして見せ付けるように
の耳元へと口を寄せると、
静かに、言葉を告げた。




「ついてこい。
話は部室で聞いてやる」




「えっ……?」




低く、小さな声は、
おそらくにしか届かなかっただろう。


顔をあげると
目の前に映る蒼い瞳に
吸い込まれるようにが首を傾げれば、





「お前っ…!跡部!!」




顔を真っ赤にした宍戸が
大声を張り上げた。





「えっ…!?今、なんて…」



宍戸の言葉に
横で声をあげる宍戸と、
自分の目の前にいる人物とを
交互に見やる。



すると、名を知らぬ人物の方が
意地悪そうに口元をつりあげ、




「『男子テニス部の部長さんで、
三年の跡部景吾』だ」




「ええっ!!?」




次に驚いたのはの方で。

頭を抱えた宍戸は、
はーーーっと盛大な溜め息をついた。








(…本気で俺を知らなかったのか?)




腕の中で動転し続ける少女を見ながら、
跡部は眉をひそめていた。




いつもなら不愉快だと思える、
自分を知らぬ者の存在。


今まで声をかけてくる人物は、
全て自分がどういった人間か
わかった上でのことだった。


それは
マネージャーを志願してくる者も同じ。







けれど、あの少女は。








真っ直ぐに自分を見つめる
その瞳に、
ひとつの曇りもないことに
気づいた。












はじまりは突然に






君との出逢いは  必然に












誇り高き王様の目の前に






なんの着飾りもなしに 現れた





箱に入った お姫様












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生徒会長の顔なんて知りません、よ、ね…?(いきなり何)
私は会長どころか、
校長先生の顔も覚えられないような人でした。
そういった経緯でこういうのもアリかなと思ったのですが…。

しかし、「跡部」という単語を最後まで出していないため、
非常にテンポの悪いお話になってしまいました。
ぐっ…。



うちの宍戸さんは、
ヒロインさんには過保護だと思います…。





Up Date 2005.7.24