はじまりは突然に




君との出逢いは  必然に








BOY MEETS GIRL ―act.4―









「「あ」」





いつもより早く目が覚め、
今日は一番乗りだと思っていた朝練。

部室の戸を開けて、
そこにいた先客と
声が重なった。




思わず出てしまったのであろう声に、
はっとして口元を覆う、小さな手。



けれど、驚いたのは
こちらも同じ。





だって、部室に女の子がいるなんて、
昨日までは考えられなかったから。







「…おはよう。早いんだね」





瞳を丸くした少女は
次の瞬間、
ふわりと穏やかな笑みを浮かべた。





「おはようございます。
先輩こそ、
朝早くからお疲れ様です」



その笑顔につられるように、
にこ、と笑みを返す。

それを見て安心したのか
少女はより高く口角を吊り上げた。





「あの、突然ですけど、
マネージャーの方ですか?」





数日前の部活で聞いた、
跡部と宍戸の会話が蘇る。



自分たちの氷帝男子テニス部に、
新たに女子マネージャーが来るらしい、
という話。


偶然耳に入ってきた話だから
どこまでが真実かは
わからなかったけれど、
本当ならば、
たしか今日からと言っていたはず。






「あ、うん。
…先に言われちゃったね」




私から言わなきゃいけなかったのに、と
照れたように苦笑する。



その口調に慌てて言葉を紡ごうとした
鳳を静止して、
そのまま見上げた。





「えっと、じゃあ改めて」





「初めまして。
です。よろしくね」




きちんと両手を前で組んで、
小首を軽く傾げて自己紹介。





「…初めまして。
二年の鳳長太郎です」





本当は、
“初めまして”
ではなかったのだけれど。






にならって名前を告げると、
それまで優しげに笑っていた彼女の瞳が
パチパチと瞬いた。






「長太郎…くん?」






「え…?」






「もしかして、サーブの早い
二年生レギュラーの
鳳長太郎君?」





ぽわん、と
丸く大きな瞳を広げたのは
一瞬。


たちまちそれは
キラキラと輝いて、
目の前の鳳に向かって
距離を詰める。





「は、はい…
うちの部に鳳は
俺一人ですけどっ…」



近すぎる距離にとまどいながらも
肯定すると、その顔は
一層嬉しそうに笑みを広げた。




「あはっ、やっぱり」





にこー、と至近距離で、
笑顔全開。



開けられた窓から吹く風が
カーテンを揺らして、
甘い香りがふわんと漂う。



男ばかりの部室には不自然な、
“女の子の匂い”


さらさらと流れる髪に
目を奪われながらも、
その次の言葉で
ふと思考が戻る。






「亮ちゃんの話に出てくるのって、
大抵跡部くんか鳳くんよ」




聞きなれないファーストネーム。


それが誰のことかわかったとき、
親しげに名前を呼ぶその姿に
思い当たる節があった。








「…俺も、
先輩のこと、知ってますよ」







そう、
前に一度、
その姿を見たことがあった。








「……えっ?」






予想通り、
先ほどの自分と
変わらない表情を浮かべたに、
鳳は小さく笑った。






「先輩がコートで
跡部さんと話してる時、
俺近くで練習してたんです」






が跡部を探して
コートに来たあの日、
鳳は宍戸と組んでそこにいた。



コートが騒がしくなった頃、
ネットを挟んで
向かい側にいた宍戸が、
異変に気づいたのだ。







「宍戸さんが
血相変えて走ってっちゃったんで、
びっくりしました」






いつも部活熱心な
あの宍戸さんが、と話す。





そんな鳳を前には、
あの一部始終を
見られていたのかと思うと
恥ずかしさに肩をすくめる。




「あ、あのね、
あれは…」






「先輩」





「先輩はマネージャー、
今日からなんですよね?」





わたわたと
言葉を選ぼうとするに、
鳳は静かに声をかける。






「え?う、うん。
今日の部活で、
跡部くんから紹介してもらうんだけど…」





仕事に入る前に、
部室を見ておきたくて。




跡部から許可を得てのことだったと
は話す。






勝手に部室に入ったことを
怒ったのかと
はおそるおそる顔を上げるが、
そこには最初に見たのと変わらない、
穏やかで優しい笑顔があった。






「じゃあ、
俺のことは話さなくても
大丈夫ですね」




「え?」





――だってあなたは、


ずっと前から俺のことを


知っているのだから。





自己紹介は必要だと思いますけど、
と、おどけて笑う。




状況が飲み込めないは、
楽しそうな鳳を見ながら
むー…と眉を寄せる。







「ああ、でも」








「先輩は俺を知っていたのに、
俺は何も知らないなんて
なんか悔しいな…」








一人苦笑いする鳳にも、

首を傾げるばかり。












はじまりは突然に






君との出逢いは  必然に












スタートダッシュは




ほぼ 同じ





わずかに差をつけるのは







あなたの中の







俺という、存在















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ここまでどうもありがとうございました^^

それにしてもヒロインさんは早く出て行かないと、
鳳くんが着替えられませんね…;

このお話は書いていて、二転も三転もしたので
ここで鳳くんが聞けなかったことを、
いつか別の形で書いてみたいです。

ちなみに、宍戸さんは部員のことをヒロインさんに話しても、
他の人にヒロインさんの話はしませんー。

そしてどうやらうちのヒロインさんは、人懐っこい性格のようです。
間合いを詰められて鳳くんは、
「これじゃいつも宍戸さん大変だな…」
と思ったことでしょう^^;


ここまで来ると色々オカシな点が…チラホラ…(汗)
次は最難関のあの人です。





Up Date 2006.8.1