真っ赤な衣装に、白いひげ。



肩には大きな袋を持っていて



聖なる夜に 一度だけ、



幸せを運んできてくれる



いつか会いたいと思った 憧れの人







私のところに来なくなったのは



いつからだろう








―永遠のサンタクロース―








コトコト、コトコト

火にかけたままのスープ鍋が、
小さく音を立てている。


パチンと火を止めると、
は用意していたトレイを
ダイニングテーブルへと並べた。



ピ、ピー…


「あ、待って!」



やかんが熱いと声を上げれば、
続いてオーブンが時間を告げる。




今年から氷帝の大学部へと進んだは、
今日が一人暮らしを始めて最初に迎える、
クリスマス・イブ。


家族と離れての生活にもだいぶ慣れてきたけれど、
こういった特別な日の料理を一人で準備するのは
思ったよりも大変なことだった。

しかも用意された料理は、”二人分”。





壁に掛けられた時計が
楽しげなメロディーを奏でだすと、
一瞬、ハッとしたは小さく笑みを浮かべる。


 
午後8時。
約束の時間まで、あと一時間。


流れる軽やかなメロディーを耳にしながら、
は最後の仕上げに取り掛かる。
ナイフにリボンを巻いたり、
グラスの縁に砂糖なんてつけてみたりして。



小さなテーブルに華やかな料理が並び、
腰を落ち着けようとしたところで、玄関のチャイムが鳴った。



(何だろう?)



こんな時間に、と不思議に思いながらも玄関を開けると、
ふわん、と甘いにおいが漂った。




「こんばんは、先輩」


「えっ…え、長太郎くん!?」




目の前のミニブーケから顔を上げると、
冷え切った頬を赤くした鳳がニッコリと微笑んでいる。



「え、だって…! 学校は!?」


高等部三年の鳳は講習を終えた後、
の家へ来ることになっていた。

けれど、当初の予定時刻はあと一時間後。




「それが…少しでも早く、先輩に会いたくて」


「!?」


照れたように苦笑する鳳は、
よく見ると小さく息を切らしていた。

健気にそんなことを言われて
思わず赤くなるに、
「あの…」と遠慮がちに鳳が声をかける。


慌ててが中へ通すと、
「お邪魔します」と言いながらクスリと笑った。







「それにしても、駄目ですよ。
ちゃんと確認してから開けないと」


「…はーい」



言い聞かせるように言われて、
は肩をすくめる。




部屋へと入った鳳は
鮮やかに並んだクリスマス料理に、
感嘆の声を上げた。



「すごい…これ、全部先輩が?」


「…やりすぎたかな」


「いえっ、すっごく嬉しいです…!」




決して大きくはないテーブルに、
その上に並んだスペアリブ、ミートローフ、チーズフォンデュ…。
向かい合わせの二つの椅子。

誰と誰が座るかなんて、考えただけで胸が熱くなる。




「今日一日、長かった…」


「え?」


「…何でもないです」



思えば、今日の講習はこのことばかり考えていて、
あまり手につかなかった気がする。

早く終わってくれ、早くこの人に会いたいと
ずっとそればかりだった。





「先に座っててもらえる?
もうすぐピザが焼けるところだから」



キッチンから声がして、
がせわしなくパタパタと動いている。



「じゃあ、その間だけ少し話しませんか」

「んー…」



「…俺には、構ってくれないんですか?」



拗ねたようにそう言ってみせると、
案の定、はひょっこり顔を出した。

料理ももちろん楽しみだけれど、
ここに来てまだちゃんとの顔を見ていない。



「……」



むー、と口を尖らせるに鳳は、
寂しそうに苦笑する。


やがては降参したかのように歩いてくると、
鳳の向かい側へと座った。



「あとちょっとなのに…」


怒っているわけではなく、
困ったように呟く。


そんな様子を見ながら、



「我がまま聞いてくれて、嬉しいです」


「〜〜っ!」


と、ニッコリ笑うと、はたちまち顔を真っ赤にする。






「…ねぇ、先輩」


「……何?」



赤くなって俯いてしまったに声をかけると、
答えは返ってきた。

けれど依然顔を下にしたままで、それが少し残念だった。



「これ、先に受け取ってもらえませんか」


その言葉に、はゆっくり顔を上げた。



「でもさっきお花を…」


「あれは別です」



先ほどのミニブーケは言わば、”おみやげ”と言ったところだろうか。
を驚かせたかった。


そう言って渡したプレゼントを、は大切そうに受け取った。
手の中のプレゼントと自分を交互に見るに、そっと告げる。



「メリー・クリスマス…先輩」



この言葉を口にするのも…何度目になるのだろうか。





鳳がプレゼントを渡すと、今度はが包みを持ってきた。
ソファーに座る鳳の頭を軽くなでながら、
ニコ、と笑いかける。



「メリークリスマス…いつもいい子の長太郎君へ」


優しく撫ぜられる感触は心地よかったけれど、
その言葉は男子高校生としては
少し複雑な感情が湧き上がる。


「…俺、いい子ですか?」

「……今日はちょっと、意地悪だったけど」



そう言いながらもの顔は怒ってはいない。


「ちょっと悪い子だった長太郎君のところには
サンタさんは来てくれないので、
代わりに私がプレゼントを持ってきました」



おどけた口調で話すが、ふふふ、と笑う。




「じゃあ、先輩のサンタクロースは、俺ですね」


得意げに笑うに鳳がそう返すと、
え?と小首をかしげる。



「私、もう子供じゃないよ」


苦笑するは大学一年生で、
高校生の鳳よりもさらに、”サンタさん”を夢見る年頃ではない。


そう言いながらもどこか嬉しそうなが可愛らしくて、
鳳は手を伸ばした。




「サンタクロースは、頑張っている人のところに来てくれるんですよ」



促されるままソファーへ座ったは、
すっぽりと鳳の腕に収まってしまう。



「…長太郎君がサンタクロース?」


振り返って聞き返すに、
鳳はふっと笑う。




「サンタのおじさんは忙しいから年に一度ですけど、
俺なら一年中、一緒にいられますよ」


先輩専属です、と付け加える。







「サンタさん」


「はい?」





「…つかまえた」



前に回された鳳の腕を、
ぎゅっと抱くようにして、が言う。





「…顔、見られちゃいましたね」






ずっとずっと会いたかった、サンタクロース。



白いおひげのおじいさんは、もう来てはくれないけれど。







「…あの、そろそろお腹、すかない?」

「そうですね」

「料理、冷めちゃうよ」

「そうですね」

「ケーキもまだ食べてないのに…」

「そうですね」



「長太郎君…聞いてる?」




最後の一言で顔を後ろへ向けようとして、
それは遮られた。




「ちゃんと、聞こえてますよ」




柔らかな優しい声は耳元をかすめて、
身体の奥から聞こえたような気がした。


同時に、を抱きしめる腕が、
ぎゅっ、と強まった。








小さいときの、夢物語



”みんなのサンタさん”は、年に一度のおじいさん





365日 愛しいあの人は


いつだって優しくて
ちょっぴり寂しがりやで

時々甘えんぼうな



私だけの サンタクロース















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お…お粗末さまでした…;


あま〜い夢を目指したつもりでしたが、さむ…寒い…;
しかもこれは…鳳くんか?(汗)
付き合って長い設定なので、鳳くんの口調を
ちょっと砕けた感じにしてみたのですが、逆効果…?


元ネタはユー●ンの有名なあの曲です。
背の高いサンタクロ〜ス♪ってビンゴじゃないですか!(笑)

サンタのおじいさんを卒業したら、恋人がサンタクロースになって来てくれるって素敵なお話ですよね〜。






Up Date 2006.12.23