そんなに必死に聞くならば




いっそ伝えてしまおうか










Sweet Sweeets Specially









「ん!んまい!」




さくっ、と一口。


目の前のトレイに手を伸ばして、
丸井は声をあげた。





「なあ、これ何て言うんだ?」




一つ、また一つと手を伸ばし、
気持ちいいくらいの食べっぷりを見せる
丸井のペースに、
お菓子の山はみるみる小さくなっていく。


そのすぐ傍で、丸井がそれを口に運ぶまで
心配そうに見ていたは、
緊張が解けたようにふわっ、と笑う。




「ガレットです。
喜んでもらえて、嬉しいです」



チョコレートとフルーツ。
二つの味の焼き菓子はの手作り。


こうして椅子の背もたれに寄りかかり、
彼女の作った大好きなお菓子を食べるのも
もう日課。




「ふーん…。
じゃ、今日からコイツも俺の好物ってことで」




シクヨロ、といつものセリフとともに
もう一口。


もう何度も聞いたその言葉にも、
は一向に慣れることができない。


喜んでくれるのは嬉しいけれど、
ここまで言われるのはさすがに恥ずかしい。




「…先輩、先週はカスタードプリンって言ってましたよ?」


「そーだっけ?」




先週末にが持ってきたのは
カスタードプリンだった。

料理の上手なの作る菓子は本当においしくて、
どれが一番なんて決められない。


その上、丁寧にスプーンやフォークまでつけてくれるから、
いつでも食べられる手軽さも
“お気に入り“の理由だった。


…たまに切原に横から手を出されたり、
真田に見つかって怒られることもあるけれど。





「…あの、ブン太先輩?」


「んあー?」




「あの…先輩が一番好きなお菓子って、
何ですか?」



まだもぐもぐと口を動かしていた丸井は
相変わらずお菓子に夢中で、唐突な質問に
初めての顔を見た。





「いつも、先輩は、
何でもおいしいって言ってくれますけど」



「私、先輩の大好物を作ってさしあげたいんです」




なんでも好きだというから、
いつも見る反応が変わらない。


自分の作った料理を、『おいしい』と言ってくれるのは、
この上なく嬉しいことで。



けれど、
本当に大好きなものを口にしたときの、
とびきりの丸井の笑顔がは見たかった。







「俺の一番の好物、ねぇ…」




ちら、と一瞥されて、
う、とは身構えた。


丸井のこういう時の瞳は
妙に男らしく見えて、
ドキリとすることがある。




けれど、ここで目を逸らしてしまっては、
またいつもと同じパターン。





じぃっと食い入るように
が見つめれば、
先に視線を外したのは丸井の方。



よっ、と身を乗り出し、
そのまま腕を伸ばして、




「当ててみろぃ」




あーんと大きな口を開けて、
最後のガレットをほおりこんだ。






「もう…先輩―?」



ん〜!と
上機嫌でその味をかみ締める丸井にとっては、
おそらく今のでこの話はおしまい。


完全に相手にしてもらえないは、
これ以上聞き出そうとしても、
丸井は決して教えてはくれないとわかっていた。




「…わかりました…」



しょぼん、と肩を落とす


意外にも素直なその言葉に
丸井が反応を示すや否や、




「先輩がそう言うなら、
私が見つけ出すまでブン太先輩には
ずっとずっとお菓子食べてもらいます!」



むぅ、と頬を膨らまし、
『ずーっとですからね…』と丸井を脅すのは、
なりの最後の手段。







「何、それ。プロポーズ?」



「…!?」






黙っての話を聞いていた丸井は、
視線をへと向けながら
指をぺろり、と舐めた。




「だってさ、お前のその言い方だと…」





お前の気がすむまで、
俺、お前から逃げらんねぇんじゃん。







ぺろぺろと順番に、指についた砂糖を
きれいに舐めとっていく丸井。





自分の発言と、
丸井のセリフに
はしばらく言葉が出なくて。






顔を真っ赤にしながら放った
精一杯の否定の言葉は、
彼の瞳を見ながら伝えることは、できず。












パタパタとせわしなく動く姿は
こんぺいとうが転がるようで




真っ赤になった顔は
ショートケーキの上のイチゴ




たまに怒ると
フーセンガムのように
頬が膨らんで




抱き締めると柔らかい身体は
マシュマロのよう




そして、
俺を見てニッコリ笑う、その笑顔は
まるでふわふわの生クリームみたいで






これ以上に



どれほど甘いお菓子が


あるというのだろう?







そんなに必死に聞くならば




いっそ伝えてしまおうか






君を丸ごと 俺に




捧げてほしいと











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雪桜さんへキリリク作品、「ブン太で甘夢」でございました。
…お菓子という小道具で、『甘さ』をごまかしたような気も;

『不二周助or丸井ブン太or幸村精市の甘夢』とのことでしたが、
管理人の都合で丸井くんにしちゃいました;

甘い=お菓子=ブン太君だ!と単純に頭の中で繋がりまして、
気づいたらこんなコトに…^^;
これでも、テーマは『食べちゃいたいくらい可愛い』でした。
タイトルは、“とびきり甘いお菓子”とでも訳して頂ければ…。

丸井くんは“カッコイイ男”だと神楽は思っているので、
なんとなく押せ押せ!なかんじにしてみました^^;


雪桜さん、リクありがとうございました^^
よろしければお持ち帰り下さいv






Up Date 2006.9.7 Tsugumi Kagura *Fairy tear*